異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
メグミは両手を床に突いて深々と頭を下げる。
「申し訳ありません。王の妻にはなれません。王には王の役割があり、王妃には王妃の役目があるはずです。私は和菓子を作りたい。それをたくさんの人に食べてもらって、おいしいと言ってもらいたいのです。王妃にはなれません」
床に額がつくほど平身低頭して、コンラートの気持ちに応えられないのを詫びる。
これほどの人が求婚してくれたのに断ってしまう自分が哀しくもあり、根っからの和菓子職人であることが嬉しくもあり、彼女はとうとうと涙を溢れさせながら頭を下げていた。
やがてコンラートは立ち上がる。はっとして顔を上げたメグミに、どこか別のところへ視線を飛ばした彼は言った。
「頑固だな。だがそういうお前だから好きになった。お前の一途な生き方を、力などで曲げる気はない。城を出たいなら、好きな時に出ろ。止めない」
それだけ言い置いて、コンラートはメグミを一人残すと部屋を出て行った。
ぱたんと扉が閉まる。どれほどの気持ちが彼の中に渦巻いていたとしても、扉は無機質に動いた。断ったのはメグミなのに、返す刀で己を両断したも同然の想いを持っている。うすうす感じていたそれを、はっきり悟る。
――好きです。コンラート様。
彼女は亀の子のようになって、おんおんと泣く。いまだけだと自分に言い聞かせながら、一人で泣くだけ泣いた。
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