異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
メグミが乗ったジリン家の馬車が裏門へ向かうのを、コンラートは三階の窓から見ていた。
行先も居場所も分かるから手放せるようなものだ。メグミはテツシバにいて、そこへ行きさえすれば逢える。和菓子が食べたくなればどうしたって彼女のところへ行くしかないわけで、その場合は菓子という堂々たる理由もある。
一人で立っている彼の後ろにすぅっと近づいたのはジリンだ。
「残念でしたな」
コンラートは、馬車が視界から出てからゆっくり振り返った。
「一度目はダメだった――というだけだ。人生は長いのだろう? 機会があれば何度でも求婚するさ。逃がすつもりはない」
と言いつつも、あそこまでバッサリ断られるとさすがに立ち直るのに時間がかかりる気がした。コンラートの熱情を前に、ジリンはたじたじと鼻白んだ。若い者には勝てませんと今にも言いそうだ。
「……跡継ぎは必要ですから、婚姻関係よりそちらが先でも構いませんぞ」
宰相として最低限のことは望んでも良いはずとばかりに言い募る。コンラートはため息を吐かんばかりだ。
「それが一番の難関かもな」
渋い顔のジリンを眺めて、彼はうっそりと笑う。
――逃がす気はない。
王城はコンラートの腹の中と言ったのはメグミだ。では王都は?
――手の内だからな。
テツシバが大事だと言うなら、その店ごと守るだけだ。
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