異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
準備で忙しくしていた春祭りの前日、アルマがテツシバへやって来た。
夕餉の用意が始まる時間だったから誰もいないときだ。誰もいないのを見計らって店の戸口に立ったのかもしれない。
アルマはメグミに向かって頭を下げる。
「ごめんなさい。小豆を雪に撒いたのは私です。メグミさんが大切にしていたのを承知で、あの板をゴミとして出しました。まさか、親の名前が書いてあったなんて。知らなかったこととはいえ、ごめんなさい」
外のベンチでは人の目に晒してしまうから、店先で泣き崩れたアルマを奥のダイニングへ連れてゆく。テーブルの上に出したのは、薬屋で仕入れるようになったお茶と、今日の余りで悪いがみたらしだんごだ。
「アルマは自分の仕事を大事にしていたでしょ。なのにどうして、部屋主の物を勝手に持ち出したのか理由を聞きたかったのよ」
アルマは顔を上げ、自分はあの第三回目の試験のときにメグミと二人で競った相手の姉だと言った。弟はあの時のことがショックで閉じこもってしまったのだと。
メグミは、国王と知り合いだったから、最初から選ばれることになっていたんじゃないか。それなら弟の頑張りも嘆きも初めから要らなかったじゃないかと、ものすごく怒りを覚えたのだと言った。
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