異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
振っていた手を下すとなんとなく手持ち無沙汰になったので、メグミはその手を結っていた髪を解すのに使った。そして頭を振って意識をしゃっきりさせてから店の中に入る。戸を閉め切る気にはなれず、ふらふらと作業台のところへ行った。
――コラン様、見掛けなかったな……。
祭りが開催された大通りには、貴族の中でもこういうのが好きな方が隠密で出歩いていた。メグミが見知った面々も大勢いて、声も掛けてもらった。
そこへ万が一にもコンラートがコラン姿で出てきては、あっという間に国王だとばれて大騒ぎになる。祭りも台無しになってしまう。
破綻の帰結が分かっている以上、コンラートは出て来られない。当然だ。
――それでも、ほんの少しでいいから顔を見て言葉を交わしたかった……なんて。
つい願ってしまうが、コランの正体が国王である以上無理だ。
大体、祭りの場に来たとしても、メグミのところへはきっと現れない。メグミにはどうしようもないことだったとはいえ、あれだけはっきりした態度と言葉を彼に投げつけたのだから。
< 259 / 271 >

この作品をシェア

pagetop