異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
――だんごの種が残っていたよね……。
上新粉を蒸して練ったものを小分けにして祭りに持参したのは、これがだんごの元だと、集まった人に見せるためだった。その場で丸めたのだ。他はいつものように四個刺しで持ってゆき、それは売れてもうない。
――見本にしたのが、一盛残っていたはず。
探したら、荷物の中の器に入れられていた。それをもう一度軽く蒸して柔らかくすると、作業台の上に粉を振って丸めてゆく。火箱の火は抜いたので、焼くのは明日にしてもいいかもしれない。
着物を着ていると、サユリがすぐ傍にいるような気がしてくる。けれど、振り返ってみても家の中には誰もいなくて、しんと静まった空気が流れるばかりだった。
半分開いている戸口から真っ暗な外が見えた。春祭りの喧騒も収まってきたようだ。裏通りになるこちらは、人通りもまばらになっている。
――静かだ……。
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