異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
メグミが城を出た後のコンラートは、相変わらず国王としての日々の政務に追われていた。彼女が遠ざかっても、繰り返される毎日は変わらない。彼だけがぽっかりと開いた胸の穴を抱えている。
いままでのように予定の合間を縫って城を抜け出し、テツシバへ行くことは可能だった。何度でも求婚するつもりでいるし、それだけ愛していた。しかし、再び拒絶されるのが怖くて、動けない。
黒獣王という二つ名をもち、冷酷無比の血が流れているのは確かでも、メグミの一撃で自分は簡単に倒れる。必死で気持ちを立て直している間も、顔を見たい、声を聞きたい、彼女のあの細い腕で作り上げてゆく和菓子が食べたい。
時たまジリンが『元気そうでしたぞ』と報告をくれる。
なぜ俺に会わなくても元気なんだ――と怒りにも似た感情に苛まれてしまうほど、彼女の姿が見たい。
王城では、厨房にいるときも内緒で覗きに行っていた。いまはそれもできない。
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