異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「メグ」

横から呼ばれて、はっと我に返る。どうやら空を眺めている間に目じりに涙が滲んでしまったらしい。

ぱちぱちと激しく瞬きをしても解消しないので、急いで人差し指で拭って隣に座るコランを見やる。困ったような顔をしている彼に笑いかけた。

「ごめんなさい。店先でこんなこと、気が抜けていたのかしら。菓子は楽しく食べるものなのに。すみません。亡くなってまだ半年ですし、コラン様の前でだけでしょうから、大目に見てやってくれませんか?」

座ったままだったが頭を下げると、コランは大層慌てた様子を見せた。

「おまえの気持ちも察してやれず、いきなり話に出して悪かった。一度くらいは逢いたかったというだけで、その、あー……泣きたいときには、泣けばいいと俺は思うぞ。解消できない我慢は、しこりになって膨らんでしまうからな」

あれ? と思った。我慢がしこりになったという経験があるのだろうか。しこりになって、そしてどうなったのだろうかと訊くのは、やめておく。心に仕舞ったものは、自ら話せるときが来るまではそっとしておいてほしいだろうから。

「はい」

菓子を求めてやって来る人に、多くは語らない。特に父親のことは。
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