異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「メグ。黒獣王の名前、知っているか?」

「は? な、名前? みんな黒獣王って呼んでいるし、なんだったかな。黒い髪をしていて、骨太な方だそうですけど。私は三年前にここへ引っ越してきたから、実際の姿は見たことないんです。残酷とか怖い人とかも言われていたかな。でも、それって二つ名のせいですよね。そういうイメージを利用しているのかな」

彼女にしてみれば、補助金があるからこそ、必要な店屋が近くに来てくれた。単純な判断になるが、メグミにとってはそれだけで高評価になる。

「二十代後半とか。三十代だったかしら……」

唐突に、批判をしているつもりはなくてもこの国の最高権力者のことをずいぶんあけすけに話していたと気がついた。

先代や先々代の王たちは、二つ名を冠した過去の王と同じ性格をしていて、他国と小競り合いをしながら国政において“凍れる冷たい手”と謳われたような手段方法を存分に振るっていたらしい。

近所の占いのおばあさんが話してくれたのだが、今の王になってから、同じ黒い髪を持った“黒獣王”でありながら従来の悪政に染まらず、しかも一新したという。

『今の国王は、いままでとは違うよ』

自分だけに利がある政策ではなく、“新しい産業の芽”を求めるところに、国と民の未来を考えているのではないかと予想する。

それでも実物が過去の王と同じだったら、ただの噂話でも曲解したあげく、メグミは罰せられてしまうかもしれない。彼女にとって何より恐ろしいのはテツシバを取り上げられることだ。
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