異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
「メグちゃん。見惚れているの?」

小さな女の子が立っていた。知った顔だ。

「待たせちゃった? ごめんね。はいこれ」

一本だけのときは手渡ししている。包み紙も舟形の薄い竹皿も、それなりに費用が掛かってしまうからだ。

「あれ、今日は髪にリボンをしているのね」

七歳くらいの、この女の子の家は、普通の者が行くと危ないと言われる下町にあり、父親は求職中だという。『仕事がなくてね』と働いて家計を支える母親がぼやいていた。女の子は一人で留守番をするときに、たまに買いに来る。

「リボンはね、父さんが買ってくれたのよ。仕事で家から離れているけど、たまに戻ってきて、美味しいご飯も食べれるの」

「それは良かったね。仕事が見つかったんだ」

「うん」

貧しいのは、まず仕事にありつけないことも大きな理由だった。家族がいて健康であるならまずは働きたいだろう。

「じゃ、メグちゃん。また来るね」

「またね。今度は、メグ姉さんくらいにしてね」

「分かったよ、メグちゃん」

ははは……と引きつった笑いが零れた。

――新しい産業の種は、もしかしたら見つかりつつあるのかも。

明るい話題だった。
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