異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
夕方になってさゆりは大通りの大きな店へ行った。今日は、鍋で炊き込みご飯を作る予定になっている。醤油を取り扱っているワイン屋と米屋のために、上手くいってほしい。

浅い鍋では、メグミはせいぜい米を炊くくらいしかできないから、具が入るとどうなるか、サユリに結果を聞くのが楽しみだ。

そろそろ客足も途切れてくる。和菓子屋が扱っているのは菓子だから、夕餉の時間が近くなると人が少なるのは当然だろう。

どこかのお屋敷の女中さんや、もしかしたら王城の女官さんと思しき女性たちもたまにやって来る。ご主人のためなのか自分のためか、どちらにしろ夕方にはその足も途絶えた。

メグミが店の中の掃除を始めたとき、一台の馬車が店の前に止まった。

――ん? ジリン様かな。

この頃は身分に関係なく和菓子を求めて訪れる人も増えてきた。ありがたいことだ。その中でも、もっとも高い身分の人ではないかと思うのがジリンだった。

隣の奥さんが耳打ちしてくれたところによれば。

『公爵様なのよ』

『え……? ご本人なんですか?』

『そうなのよ。あちらこちらの店を覗かれるけど、テツシバへ来られる回数が一番多いわね』

ということらしい。人を使わせることもなく自分で買いに来るのは、本当に好きなのだと感じられて嬉しい。
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