異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
ジリンは理解したのかどうか、ふむふむと頷いていた。

「考えというのは状況によって変わることもあるだろうから、もしもその気になったら連絡をくれ。あの馬車屋の主が、わしの屋敷の場所を知っている。そのときにはおまえを連れてくるよう言っておくから、気が変わったら言ってくれ」

メグミを見たジリンが一瞬、穏やかな優しいおじさまという印象から、権力闘争を繰り広げている貴族の顔になる。彼は力を込めて付け加える。

「期限がある。決めるなら早くということだ」

どきんとしたが、すぐに表情も代わっていつものようになった。

「ジリン様。ありがとうございます」

自分の考えが変わるとは思えなかったが、先々に何があるか分からないのも確かだ。いきなり滑るようにして異世界へ来てしまった、などということも起こりえたではないか。

なにより、ジリン公爵はテツジを知る一人であり、お得意様だった。頼みごとというなら、できれば応えたい気持ちもあった。
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