異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
馬車屋の前まで来たメグミは中へ向かって大きな声を上げる。

「こんにちは。店長さんはいらっしゃいませんか?」

すると奥からひとりの青年が出てきた。

「テツシバのメグミちゃんじゃないか。どうした?」

親しげに言ってきたのは、店舗を担う主にしては若い男性で、たまにテツシバへ和菓子を買いに来る客のひとりだった。均整の取れた体つきや、きっちりついた筋肉は、馬車を取り扱うからだろうか。

背はそこまで高くないしあまり目立つ顔立ちではないので強い印象は残らないが、笑うと片頬えくぼができるところがそこはかとなく可愛い。

――コラン様と同じくらいかな。年上なのに、可愛いなんてね。

メグミは彼に向って真剣な面持ちで頼む。

「あの、ジリン様のところへ行きたいのです。この店の主に伝えろと言われていました」

「僕はエディ。そう呼んでくれ。ジリン様のところへ連れていくよ。その気になったんなら、今からでもね」

彼は、顔をそらすようにして少し先にあるテツシバを見る。その動きで分かった。

――母さんが倒れたこと、知っているんだ。

この界隈では、噂はすぐに走るのでその場にいなくてもテツシバの事情は誰でも知っているだろう。
< 75 / 271 >

この作品をシェア

pagetop