消えないで、媚薬。
「……さん?香帆さん…!?」
ハッと我に返る。
心配そうに私を見る彼。
手はまだTシャツを掴んだまま。
え…!?脱いでない!?
「ごめんなさい……怖がらせて」と悄気ている。
もしかして今の、少しだけ妄想してた…!?
え、どこから…!?
キスはしてたよね…!?
こうやって押し倒されて…!?
「泣かないで…?もうしないから」
「え…?」
そう言われて初めて泣いている自分に気が付いた。
こめかみまで濡れてる涙の跡。
怖くて…!?
じゃないと思うんだけど、自分でも何の涙かよく分からない。
Tシャツを離したら身体も離れてくれた。
私なんかより不安そうな顔。
丁度いいかも知れない。
恐怖で怯えてるフリでもしておこうか。
そしたらきっともうしてこないよね…?
「大丈夫…だけど、こういうことされるとちょっと……」
「ごめんなさい……」
あれ?やけに素直……ちょっと可愛いぞ?
なんだ、やっぱり中身はまだまだ高校生…なのかな。
「キスも嫌だった?」
「え…!?」
いきなり何言い出すの!?
でも顔がマジだ。
ていうか、今度は何でそっちが泣きそうになってんのよ。
凄く…すごーくすがるような瞳……
「キスもしちゃダメ…?」
「あ…当たり前でしょ…!」
「付き合ってるのに!?」とまた身を乗り出す。
付き合ってるようで付き合ってないよね、これは。
今はキミの思いつきに付き合ってるだけ。
罰を受けてるだけだよ。
「キスだけはお願い、取り上げないで?」
「え…?」
「お願い……キスしないでとか言わないで?」
「い…石川くん!?落ち着いて?」