消えないで、媚薬。



「カホ先生、ミクちゃんお願い出来る?」




途中で他の先生が呼びに来た。
指導係の交代。




「じゃあ、今言ったみたいに最後までお願い出来る?」って女子に言ったのに「任せてください」って受け取ったのは石川くんで、わざと手に触れてきた。
いかんいかん、冷静なフリ。
「ありがとう」と笑顔で去って行く。




整列の時からメソメソなミクちゃんの元へ。
行進まで抱っこで落ち着かせる。
泣き止んだら
「せんせい、まんなかでまってるからえがおであるいてきてくれる?」と言ったらコクリと頷いてくれた。




入場曲とともに元気良く行進する年少さん。
ミクちゃんと別れてグランドの真ん中に移動。
びっくりするくらい堂々と行進してくれて保護者も涙ぐんでてもらい泣きしそう。




かけっこもダンスも皆いつもよりキラキラしていて自然と周りも笑顔になる。




石川くんといえば玉入れの準備も率先してやってくれるし、何なら年中さん年長さんと一緒に盛り上がって遊んじゃってるし。
お兄ちゃん先生って呼ばれて嬉しそう。




競技の合間に水分補給。
500mlのペットボトルのお茶を隠れて飲んでいたらサッと隣に現れた石川くんが「一口ちょうだい」って言ってきて思わず噴き出しかけた。




えっ!?
今、子供たちと遊んでたよね!?
ってもう取り上げて飲んでるし…!
周りに誰も居ないか確認する。




「気温は涼しい方だけどやっぱ運動会ってなると暑いね?」ってTシャツ扇いでる。
無言でペットボトルを取り戻す。




死角な場所だからといっても油断大敵。
どこで誰に見られてるか分からない。
行こうとした手を掴まれて……




「迷惑だったんならごめん……でも近くで見たかったから……」





「ごめん……今は余裕ない……お願いだから外では馴れ馴れしくしないで」




逃げるようにその場を走り去った。
一秒でも長く離れていたい。
近くにいると平常心を保つのが難しくなってくる。
だってキミはとんでもなく突拍子もない人だから。
いつも突然、心拍数上げてくる人だから。






< 22 / 94 >

この作品をシェア

pagetop