消えないで、媚薬。



野暮ったさもなくなって垢抜けてたから、さとみが「時田の隣ね」と耳打ちしてくれなきゃすぐには気付かなかった。




次々に運ばれてくるお酒や料理。
自然と唐揚げに手が伸びて小皿に分ける。
カットレモンも添えて「はい」と時田くんに渡すとびっくりされた。




「え?なに?唐揚げ好きだったよね?」




当時の記憶が蘇って無意識のうちに身体が動いてた。
皆も私が真っ先に時田くんに分けたことにびっくりしたのか「おぉ…」なんて言ってるし。
そんなに注目されると急に照れてくるし。




「うん、大好物。しかもレモンまでよく覚えてるな」




「は?忘れる訳ないじゃん、最初私にブチ切れしたよね?勝手にレモンかける女はただの自己満女だって」




「そうそう、俺は自分のタイミングでかけるから何もするなって言ったわ」




「めっちゃムカついたから鮮明に覚えてるわ」




「だからレモン添えてくれたんだ?」




「だね?」





互いに笑い合ってると
「何かいい感じじゃーん?」と周りが囃し立てる。
ないない、と否定しても通らない。
ま、皆もお酒入ってるし本気にしてないよね。




「次何飲む?」と時田くんが聞いてきた。
もうあと少しでグラスが空いちゃうから気を利かせてくれたんだろう。
でもグラスを手で蓋しちゃう私。




「あ〜ごめん、次は烏龍茶で」




「は?飲める口でしょ?」




「いや、めっぽう弱くなったと言うか……」




「明日休みだろ?」




「ま、そうなんだけど」




「じゃあ飲めよ。昔はよく飲んだじゃん」




うぅ、もうお酒に飲まれちゃうのはちょっと……
それに、ふと慶太の顔が浮かぶ。
あの可愛い顔で
「俺以外の前で酔わないで」と念押しされたんだった。





「なに?お酒の失敗でもしちゃった?」







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