【母子恋愛】かあさんの唄
第9話
ひろみさんと新郎さんの結婚披露宴は、あの騒ぎが原因で中止になってしまいました。

中止になった影響は、新郎さんの仕事にも大きな影響が出てしまいました。

新郎さんは、会社からシンガポールの駐在事務所への勤務を命ずとしていた辞令が突然取り消されて、香川県内にある建設会社で栽培しているブルーベリーのハウスへ行くようにと出向命令を下されてひどく落ち込んでいました。

そして、八栗(やぐり)にある新郎さんの実家のクリーニング店も、新郎さんの父親が顧客からの預り金を使って不慣れな投資に手を出したので、実家のクリーニング屋さんは閉店に追い込まれてしまいました。

ひろみさんは、あの一件で新郎さんの実家と関係が気まずくなってしまいました。

ひろみさんの両親もまた、相手方の家にどの面下げてわびればいいのか分からずに、コンワクしていた…

さて、ゆうとさんはあれからどうなっていたのかと言うと、シングルのお姉さんがせっかくご両親がまとめた縁談を一方的な自己都合でお見合いを破棄すると言うたので、家が非常事態におちいっていました。

ご両親としては、シングルのお姉さんにどんな理由があろうとも、大急ぎでムコを迎え入れようと言うて、ますますヤッキになっていました。

そんな中でありましたが、ゆうとさんはバイト先のマクドの人から終身雇用で働ける職場が見つかったよと言われました。

ゆうとさんは、どこに就職が決まったのかを店の人にたずねてみました。

「終身雇用の職場が見つかったと聞きましたが、それはどこでしょうか?」
「どこって、自衛隊だよ。」

店の人の言葉に対して、ゆうとさんは『自衛隊。』と不満げな声で言うてから、店の人にこう言いました。

「何で自衛隊に再就職しないといけないのですか!?」
「どうしてそんな不満な声で言うのだね?自衛隊に入ったらお給料も今の2~3倍増えるのだよ。それに資格が欲しいのだったら勉強させてもらえるし、車も家もローンを組まずに買えるし、免許証も取らせてもらえるのだよ。」
「そうじゃなくて、誰がそんなことを言っていたのだよ!?」
「誰がって…ゆうとさん!!ゆうとさんは今のままでいいと思っているのかね!!昇給もない、終身雇用じゃない、安定した年金がない職場で働き続けていたら、困るのはゆうとさんなんだよ!!」
「それがどうかしたのでしょうか!?ぼくにはムジュンしているとしか思えません!!せっかくですが、自衛隊に入隊の話はお断りいたします!!」

ゆうとさんの言葉に対して、店の人はカチンと来てしまいました。

「断るだと!!ゆうとさん!!あなたは、私の厚意をどうして受け入れようとしないのだ!?」
「フザケルな!!昇給もない、終身雇用じゃない会社にいることがかわいそうだと言うことがムジュンしているのだよ!!こんなことになるのだったら、マクドにくるんじゃなかったわ!!」

ゆうとさんの言葉に対して、店の人はますますヤッキになってしまいました。

「ああ、なさけない!!それじゃあ、ゆうとさんは24年間育てて下さった養父母の恩義も忘れたと言うことだな!!もういい!!」

店の人は、プリプリと怒った表情でチュウボウに入ってしまいました。

その次の日のことでありました。

円座町にあるゆうとさんの家にて…

前日、ゆうとさんがマクドの店の人から自衛隊に入隊の話を断ったことを聞いたので、お父さまが腹を立てていました。

話があるからと言うたゆうとさんのお父さまは、昼ごはんを食べながらゆうとさんと改めて今後の人生設計のことについて話をすることにしました。

ダイニングのテーブルの上には、カレーライスとグリーンサラダとらっきょうが置かれていました。

ゆうとさんのお父さまは、らっきょうを口に入れてもぐもぐと食べた後、あつかましい口調でゆうとさんに言いました。

「ゆうと!!お前はこれからどうするつもりなのだ!?」
「何だよオヤジ!!」
「マクドの店の松木さんがすすめて下さった自衛隊に入隊の話をどうして断ったのだ!?とうさんはそれを聞いてなさけなくてなさけなくて…ゆうとが幸せになれるようにと思って、松木さんを通じて、香川地協(地方協力本部の略)にお願いをしたのに、お前はわしの思いをふみにじる気なのか!!」
「フザケルなよ!!なにがわしの思いをふみにじる気なのかだ!!あんたはふたことめには終身雇用で昇給がどーのこーのと言いたいのだろ!!あんたはバイトで働いている人たちを悪いように言うけど、そういうあんたはどーなんだよ!!学生の時に遊んでばかりいて、シューカツの時にコネつこて会社に就職した…だからあんたはバカ以下なんだよ!!」
「バカ以下とはなんだ!!」
「バカをバカと言うて、どこが悪いのだ!!」フザケルなよ!!アネキのクソッタレムコばかりえこひいきしやがって!!あんたらのことは一生うらみ通すからな!!」

ゆうとさんの言葉を聞いたお父さまは、震える声でこう言いました。

「ゆうと!!とうさんに対して何だその言いぐさは!!24年間育てて下さった恩を忘れたと言うのか!?」
「ああ!!そうだよ!!」
「ゆうと!!ゆうとが生まれてきた時、実の母親が16の小娘だった…育てることができないから乳児院のスタッフさんが保護して下さって、この家に養子に来た時のことをきれいに忘れたと言うのか!?」
「24年前のことを出してくるな!!ふざけるなよ!!ほんとうにあんたらのことをうらみ通すからな!!覚悟しとけよ!!」
「ゆうと!!」

ゆうとさんのお母さまは、ゆうとさんとお父さまのやり取りを聞いたので、どうすることもできずにシドロモドロになっていました。

ゆうとさんは、お父さまと大ゲンカをした後に家から飛び出してしまいました。

このあと、ゆうとさんのお母さまはシングルのお姉さんに過度に優しい声でこう言いました。

「亜寿紗、亜寿紗よかったわね…結婚相手も見つかったし…防衛大学卒業の幹部自衛官で、いいおむこさんね…とうさんもかあさんも安心したわ。」

両親の言葉を聞いた表情が曇ってしまったシングルのお姉さまは、泣きそうな声で両親にこう言いました。

「あのね…アタシ…好きなカレができたの…それで…胎内に赤ちゃんもいるの…だからアタシ…好きなカレと結婚するから…」

シングルのお姉さんは、両親に好きなひとができたことを打ち明けた…

両親は、顔を下へ向けたあと、ものすごく悲しい表情を浮かべてうつむいてしまった…
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