ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
『・・・・・・・・』
ミントタブレットの刺激が口腔内でじわじわと行き交っていた俺の背中越しに聞こえてきた声。
「あんな時間に何しに来たんだろうな?」
『・・・・・・・・・』
口の中に広がっていたミントの刺激はかなり弱まっていたのに
後ろめたさが残っている俺は簡単な返答すら出せなかった。
「もしかして、レイナ、自宅に置いてきぼり?」
でも、そこまで突っ込んだ質問をされてしまったことに驚いた俺はもう振り返らずにはいられなかった。
振り返ったその先にいたのは
・・・・森村。
右手にバナナを握り締めたまま・・といういかにもいつものお調子モノ系の彼らしい格好だったが、そんな彼にしては珍しくこの時は・・・不機嫌そうな空気を発していた。
「今朝、院内の売店にバナナ買いに行ったら、丁度居合わせた看護師から事情聴取されたぜ。」
『・・・・・・・・・・・』
そう言いながらおもむろにバナナの皮を剥き、口元に近づけたが食べるのをやめた彼。
「“日詠先生と仲、いいですよね?・・・日詠先生って結婚したばかりですよね?”だって。」
そう言った直後、バナナの先端のあたりにあるやや熟した部分を折って口に放りこんだ。
「昨日なにがあったかまで聞かされて・・事実かどうかは知らんけど、心中穏やかじゃないんだ、オレ。」
更にバナナの皮を剥いて、バナナの実にかじり付いた。
口の中のバナナを噛んでいて喋れないはずなのに
森村は俺に言葉を言わせる隙を与えてくれない。
「もう泣かせないんじゃなかったじゃね~の?レイナの耳に届いちゃうのも、もう時間の問題かもね~。」
そう呟いた森村は食べ終わったバナナの皮を俺のデスク横のゴミ箱に乱暴に投げ入れた。