ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
さっき廊下で挨拶してくれた看護師さん達。
そして売店で声をかけられた森村の話から考えると、
彼の言う通り、昨日、俺と奥野さんとの間にあった出来事が
なぜか他のスタッフに知れ渡っているらしい。
「たかがキス・・・されどキス、じゃね?」
吐き捨てるようにその言葉を紡ぎ、森村は医局から出て行ってしまった。
たかがキス
・・・若い頃の俺なら簡単にそう流していただろう
でも、伶菜とのキスの味を覚えた俺は
キスの大切さそして・・・その重さを知った
だから、
たかがキスでも
後ろめたさを感じずにはいられなくて
俺を挑発するために奥野さんが仕掛けたキスも
俺にとってはたかがキスに近いモノだけど
伶菜に誤解されたくなかった
以前、彼女が
俺と奥野さんの間に恋愛関係があると思い
同居していた俺から離れようとしたのを知っているから
だから、誤解とかされる前になんとかしたい俺は、
そろそろ出勤しているはずの伶菜を探すために医局を飛び出した。
モルヒネ事件の時に一目散に伶菜の元に向かったあの時の森村のように。
臨床心理室のスタッフルームのドアを勢いよく開け、彼女の姿を探したけれど見当たらなかった。
そんな俺に早川室長が、伶菜は産科病棟に向かったことを教えてくれた。
早川室長のところに相談に来る予定だったのに慌てていた俺は
“どうも”と頭を下げただけで、産科病棟に急いだ。
なかなか来ないエレベーターなんて待っていられなくて階段を駆け上がった。
防火扉を兼ねている階段のドアを開けた瞬間、産科のナースステーションの中で
谷本さんらしき人に抱きかかえられている白衣姿の女性の後ろ姿が目に入った。
間違いない。
その女性は伶菜だ。