ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活
その小さな声が聞こえなかった俺は
彼女の体を包み込んでいた両腕の力を緩めざるをえなかった。
そして彼女を覗き込んだら
彼女は静かに涙を流していた。
嗚咽を上げることを我慢しながら。
やっと聞こえた伶菜の
“・・・下さい”の一言。
その後の涙の存在が
聞こえなかった言葉達がなんだったのか
彼女に急かしてはいけないと
俺に訴えかけた気がした。
ただ彼女を見つめるしかできなかった時間。
彼女は俺の視線が気になったのか、俯きそして右手で涙を拭い
そして
再び真っ赤な目のまま俺を見つめた。
小さく震える唇が
一瞬、弧を描き
そして
そっと俺の名前を呼んだ。
「ちゃんと言い訳して下さい。この症例が上手くいったら・・・奥野先生のこと。」
『・・・・・・』
「上手くいかなかったら、聞きませんから・・・」
馬鹿だな
面と向かって堂々と俺を責めろよ
もう我慢なんてするな
今度こそずっと一緒にいるんだから
『この症例が上手くいかなかったら聞かないなんて言うな』
「でも・・・・・」
『上手くいかせる。俺も一緒にやるんだから。』
伶菜が抱いているであろう未来や将来に対する不安も
この症例を担当する不安も
ひとりでそれらに立ち向かうのは並大抵なことではないだろう
でも
ふたりで一緒に試行錯誤しながらやればいい
そのためにも
俺と伶菜の間にある “すれ違い”をクリアすることが
俺らには必要なんだと思う
俺にとって伶菜は
たったひとりのかけがえのない人なんだから・・・
『だからとことん、俺を罵るんだ。』
「・・・・・・・」
『でなきゃ俺、スキなオンナのために言い訳すらできないどうしようもない男のままだ。』
「そんな・・・」
『ヘタレ?、になっちゃうだろ?』
よほどヘタレがツボに入ったのか
伶菜は顔をくしゃくしゃにして泣きながら笑った。
しばらく時が流れ、彼女がようやく落ち着きを取り戻した頃だった。
「ヘ、タレ・・・」
『ん?』
小さな声でそう呟いた伶菜。
彼女らしくないやや冷たい口調で。
「奥野先生に、キスされちゃうなんて、バカ・・・」