お前は、俺のもの。
私たちはどちらから話すことなく、沈黙のまま鬼課長のマンションへ帰ってきた。
鬼課長の機嫌が超絶に悪い。駐車場に車を停めて歩いているが、彼は先へ行ってしまう。
──このまま、部屋まで行ってもいいのだろうか。
立ち止まり、マグカップの入った袋を握りしめる。
前を向くと、五メートルほど離れたところで、鬼課長がこちらへ振り向いて立っていた。その顔は無表情で、彼が何を考えているのかわからない。
何も言わない無表情なこの顔を、今まで一度だけ見たことがある。
あの日、彼が事務所の電話で、床が震えるくらいの怒鳴り声を張り上げたあと。通話が終わった直後のあの人の横顔が、それだった。
まるで、ちょっと視線が交わるだけで心臓を握り潰される。それくらい強烈な恐怖を覚えるのだ。
足が、動かない。
怖い。
気づくと、その顔が間近に迫ってきた。
恐怖で、視界が滲む。
「凪」
低い声に呼ばれて、ギクリと体が固まる。
ふわり。
私の体は優しく、しっかりと抱きしめられた。
「俺は今、自分自身にすごく腹を立てている。でも、それ以上にお前は大事だから」
耳元で聞こえた、泣きそうな彼の声。