お前は、俺のもの。
「一ノ瀬課長、お願いです。二人で真剣なお話がしたいんです」
「断る」
鬼は即答だった。
しかし、小堺るみも諦める様子はない。
「この際、何故その人がいるのか問い詰めたりしません。今はどうしても話がしたいんです。お願いします!」
「謝るくらいなら、ここに彼女がいてもいなくても関係ない。俺は小堺と二人で話す気はない」
凍るような冷たい空気が漂う中で、二人とも意志を曲げない。
住宅地の中のマンションだ。
通行人が「何事か」と、チラチラと私たちを見ながら通り過ぎていく。
人の目を気にすることなく対峙する二人。私はもう一度、斜め前に立つ鬼課長をチラリと見上げる。
彼は人の目を気にしたわけではなさそうだが、「はあぁ」と大きなため息を吐いた。そして、マンション前のレンガで作られた花壇を指す。
「あそこでなら、一分だけ話を聞いてやる」
私たちから二メートルほど離れている。声の大きさによっては、話し声が聞こえてくるかもしれない。
小堺るみはその場所を見て、不満そうな顔をする。
「…できればお茶でも飲んで、ちゃんと話したいです」
「悪いが用事があろうとなかろうと、小堺とプライベートで長々と会話をする気はない。俺と話をしたいのか、どっちだ?」
鬼もうっすらと頭に角を生やして彼女に問いかける。
二人の様子を気にしていると、小堺るみは諦めたように肩を下ろして、「わかりました」と言った。そして私をひと睨みすると、歩き出した鬼課長についていった。