お前は、俺のもの。

不安だ。
二人の話す雰囲気が気になる。小堺るみが一方的に何か話をしているようだが、言葉としては聞き取りにくい。鬼課長の低い声もチラッと聞こえ、その度に彼女は手を顔に当てる。

──また、小堺るみを泣かせたのだろうか。

約一分。
鬼課長が長い足を一歩後ろへ引く。
話が終わるのだろうか。
その時、小堺るみが私を見た。眉を吊り上げ、とても怒っているようだ。その怒り顔が鬼課長へ向けられる。

「私を手放したこと、絶対に後悔させてやるんだからっ!」

ビクッ。
彼女の声はこちらにも十分に届き、驚いて肩が震えた。
叫んだ彼女は、鬼課長から去っていく。大股でズンズンと肩を揺らして歩く後ろ姿は、明らかにご立腹のようだ。
彼も去っていく小堺るみを一瞥して、私の方へ戻ってきた。

「待たせたな」

逆三角形の目尻が少し下がった、困った顔をしていた。珍しい表情に「どうしたんですか」と聞いてみた。
鬼課長は去っていった彼女の方へ視線を向けると、口をへの字にした。

「「私と付き合えないなら、人事に異動願いを出す」と言ってきた。俺は問題ないが、小堺を頼りにしている営業企画の連中は困るかもしれない」

「そんな」
思いっきり公私混合している彼女の言葉に、私は唖然とした。
仕事中だろうとプライベートだろうと、鬼課長を追いかけてきた彼女だ。自分の彼に対する努力を諦めたくない意地があるのかもしれない。
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