お前は、俺のもの。

駐車場に車を停め、鬼課長にエスコートされてアスファルトに降り立つ。腰をしっかり支えられ、周りの人たちに見られてると思うと途端に恥ずかしくなる。
「だ、大丈夫です。歩けると思うので」
と言ってみるが、鬼は首を横に振る。
「俺が、こうしたいんだ」
と言われて、腰にまわした腕に力が入るのがわかった。

潮の香りに誘われるように、私たちは水族館へと歩いた。

今はお昼。
遅めの朝食だったせいか、まだお腹は空いていない。

「うわあぁ、マンボウだあぁ。大きいねぇ」

巨大な水槽の中で、のんびりと泳ぐマンボウに釘付けにされる。
自由気ままなマンボウに、あることを思い出して「あ」と声を出す。腰を支える鬼課長が「どうした?」と聞く。

私はマンボウを見つめたまま、ポロリと呟く。

「そういえば、夏期休暇に入ってから、私の赤いジャージが見当たらないことを思い出しました」

逆三角形の目が、ゆったりと漂うマンボウを追っている。
「凪の干物変身道具か」
「あのジャージは三年前のボーナスで買ったんです。すごく楽なので、家にいる時はずっと履いていたんです。膝に穴が空いてしまったんですが、愛着が湧いてしまって捨てられず使っているんです。母が勝手に捨てたりしないと思うんです」

私の干物変身道具は全部で七つある。満島家の居間、テレビのお笑い番組、ビール、あたりめ、ヨレヨレのTシャツ、ジャージ、エアコン。
全てが揃えば、干物の出来上がりだ。
「ジャージくらい、俺が買ってやる」
「膝に穴、開けていいですか」
「出来れば、大切に使って欲しい」
「…ですよね」

私は鬼課長に腰を抱かれるまま、次のエリアへと向かった。
< 220 / 285 >

この作品をシェア

pagetop