お前は、俺のもの。
イルカショーの会場は、階段を上がって外に出なければならない。
階段の手すり側をゆっくり上っていく。ゆっくりなのは腰に負担をかけない為と、後ろから鬼課長が追いついてくるかもしれないという、少しの自惚れた期待だ。
──最初はあんなに怖いと思っていたのにね。
声をかけられた最初の頃を思い出して、小さく「へへっ」と苦笑いをする。
階段を数段ほど上った時だった。
後ろから、肩から掛けたショルダーバッグのベルトを、突然引っ張られた。
ぐいっ。
驚いて体の重心が後ろへいくと同時に、慌てて階段の手すりを掴む。しかし、足が階段を踏み外してしまった。
「ひゃっ」
体が、浮く。
──お、落ちる!
「凪!」
背中から落ちそうになる私を、後ろから腕が伸びて抱きとめられる。全体重が後ろの人物に預ける形になることに、心の底から罪悪感が噴き出す。
「ご、ごめんなさい…」
後ろから聞こえた、大きな息を吐く音。
「大丈夫か。危なっかしいな」
その低い声に安堵する。私も落ち着こうと、肩で深呼吸をした。
「一ノ瀬…あ。なっ、梛…ありがとうございました」