お前は、俺のもの。
帰りの車の中に静かな空気が流れる。
先に口を開いたのは、鬼課長だ。
「凪、あの水族館で何かあったか」
ギクリと体が固まる。平静を装うつもりで「どうして?」と微笑んでみせる。
彼は運転しながら言った。
「二年以上もお前を見ていたんだ。変化くらい、すぐにわかる」
「ええ?」と、驚くとは違う意味の気持ちの声が出る。すぐに、
「俺をストーカー扱いするな」
と、文句が返ってきた。
チラチラと疑いの目を向けられながら運転する隣で、私は「話そうか迷ったんですけど」とボソボソ話した。
水族館の階段で、誰かに後ろからバッグのベルトを引っ張られたのだ、と。
鬼の横顔をチラリと窺うと、またもや眉間にシワが出来ているのがわかる。
「凪が階段を踏み外したのは、それが原因だったのか。だが、あのとき俺たちの周りにいたのは、家族連れと思われる何人かと若い男女のグループと…」
彼もはっきり覚えているわけではないようだ。
「落ちそうになったとき、誰かが横を通り過ぎた気がしたんです。でも自分のことに 必死でよく覚えていなくて」
「それは仕方ないことだ。でも、怪我がなくてよかった」
それは私も思っていたことなので、「そうですね」と頷いた。