お前は、俺のもの。

綾乃には、夏期休暇が終わった翌日のお昼休みに、食堂で掻い摘んで話した。彼女は内容が変わる度に、顔の表情が百面相のようにコロコロ変わる。お昼のたらこのクリームパスタも、さっきから麺をクルクル巻いているだけだ。
そして、さすがに水族館のことは顔を曇らせた。
「それって一ノ瀬課長が一歩遅かったら、凪さんは間違いなく落ちてましたよ。誰がやったかわからなくても、悪質です。警察に言った方がいいですよ」
「ん…でも、怪我をしたわけじゃないから。彼も少し様子を見よう、て言ってるから」
「まあ…そう言うなら私も凪さんと一緒にいるようにしますけど。でも、本当に注意してくださいよ?」
綾乃はそう念を押して、ようやくパスタを口に入れた。
彼女は本当に頼れる優しい後輩だ、と思った。


「凪、明日の午後からモデルルームの内装チェックがあるが、一緒に行くか?」

夕食のサバの味噌煮を美味しくいただいている時に、鬼課長が話しかける。
「水回りの設備工事も終わって内装はほぼ完了している。あとは電気工事が残っているが、家具や雑貨の設置の確認がしたい」
私はもぐもぐと口を動かして頷く。
「内装が終わるお部屋を見るのは初めてなので行きたいです。楽しみになってきました」
と、既にワクワクしながら話して、ご飯を口に入れる。
これまでモデルルームの現場は鬼課長が資材確認で何度か向かっている。基本、一ノ瀬不動産の現場担当者がいるので、下請け会社となる事務の私が足を運ぶことはなかったのだ。

鬼課長はみそ汁のお椀を手に、フッと顔を緩める。
「そこで、凪に頼みがある。モデルルームの見学会の間、貸してほしいものがある」
「貸してほしいもの、ですか?」
私はピリ辛もやしをパクリと食べて、彼を見つめた。
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