お前は、俺のもの。

翌日の午後、私たちはモデルルームのあるマンションにいた。
「どんな仕上がりか、楽しみですね」
駐車場で車から降りた私は、まるで子供のようにはしゃいでいた。
鬼課長は口を噤んだまま、渋い顔をして車から降りた。私は図面などを入れたカバンを持ち直して、「どうしたんですか?」と聞いた。
「いや」
彼は短く答える。

間もなく、鬼課長の後ろから「なぎー」と呼ぶ声が聞こえた。

上昇するエレベーターの中で、その人はニコニコと私を見る。鬼課長より少し背の低い、黒縁眼鏡のネイビーのスーツの彼は、その笑顔を鬼課長へ向ける。

「親父が言ってたぞ。「俺の薦めた縁談をぶち壊して、社内の女に夢中になっている」って。彼女だろ?だってその社員証の名前…いてっ」
鬼のお兄さんであり、一ノ瀬不動産の社長が面白がって言うと、鬼は遠慮なしに彼の胃のあたりを肘突きした。
鬼は仏頂面でお兄さんを睨んだ。
「俺を無視して勝手にあんなことをするから仕返ししてやったまでだ。俺は自分の決めた女と結婚する」

二人に気づかれないかと、私はドクドクと連打する心臓に、何気なく手を当てるフリをした。

あまりにも普通に接するから忘れていたが、彼は御曹司だ。今回は婚約者だった千堂紗羅をなんとか破談に出来たとしても、また次の縁談を用意してくる可能性はあるのだ。
本人はああ言っているが。

今は鬼課長はわたしのそばにいても。
彼の見初めたお見合い相手が現れたら。

私は、一ノ瀬 梛の前から消える覚悟をしなければならないのか。
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