お前は、俺のもの。


「いやぁ、よく来れたね。台風で高速走るの、大変だったでしょ」

工房を訪れると、カウンターの奥から箱を抱えた人が現れた。
私より年上の、短く整えた顎髭のある浅黒い肌をした男性だ。肩まで袖を捲りあげ、ムキッと盛り上がった逞しい腕の筋肉に視線が向いてしまう。

「オーダーメイドは「思っていたものと違う」とか「イメージが違う」というのがあるから、あまり受け付けないようにしてるんだけどね。あの佐藤の紹介ということで、特別に受けたんだよ。一ノ瀬さんも商品のイメージや詳細を言ってくれたから、思ったよりいいものに仕上がったと思うよ」
彼の言うことから、かなり無理なお願いをしたのだろうと思った。
そして、あの「カフェ」の佐藤さんに必ずお礼をしようと心に留めておく。

カウンターに箱を置いて、「これが商品ね」と箱を開けて中身を取り出そうとした。
私は気になる「それ」が見られると思い、箱を見つめてそわそわした。
しかし、その手を止めたのは鬼課長だ。
「いえ。このままで大丈夫です。上から確認できれば十分ですので」
「え、そうかい?しっかり包んであるから、割れてはいないと思うけど」
と、二人のやり取りを聞いて、私はご馳走のお預けを食らった気分になる。

カウンターの上に置かれた白い箱は、高さが五十センチほどあり、カウンター自体が高さがあるため、長身の鬼課長たちにとっては箱の中身を見ることは難しいことではない。しかし百五十センチほどの身長の私にとっては、背伸びをしても箱の中を見ることはできなかった。
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