お前は、俺のもの。
確かに、甘やかされてばかりの生活は嬉しいけれど…。
『刺激を与え合いたい相手がいいですね』
以前、綾乃が言っていたことを思い出す。
彼女は今、加瀬部長とお付き合いしているが、私は彼らならお互いのことを尊重し合って成長していける良いパートナーになれると思っている。
理想のカップル、なんだと思う。
──鬼課長と私は、「どんな私たち」であるのがいいのだろう。
今まで付き合ってきた経験があっても、相手に対してそこまで考えたことはなかった。
フロントガラスに降り続く雨が強くなっている。ワイパーが普通に動いていても、視界は良いとはいえない。
私は彼の運転を頼りにして、窓ガラスに当たっては着物の流水模様のように流れていく雨を眺めて、頭を悶々とさせるしかなかった。
「…凪」
名前を呼ばれて、気がつく。
窓ガラスに映る風景は、夜の山の中にいる感覚だ。雨はポツポツと、フロントガラスに当たっている。車は止まっている。
人の気配がして何気に横を向くと、鬼課長の顔があった。車内は暗いが逆三角形の目が細くなって笑っている。
そこで、私は自分が眠っていたことに気づく。
彼は体を起こして、
「工房に着いた。商品を引き取ってくる」
と、車から降りようとした。
「あっ!わ、私も降ります!」
と、慌ててシートベルトを外した。