お前は、俺のもの。

金髪に近い茶髪の若い女の子が鞄と上着を抱えて、逃げるように家から出ていく。その後から、Tシャツにスウェット姿の梛がふらりとリビングに現れた。
何も言わずにキッチンでグラスにジュースを注ぐ梛。

で、この状況だ。

「もう、どうしてあなたは、そんな男に育っちゃったのかしらっ!」

「別に母さんに迷惑かけてないだろ」
素っ気なく呟く息子に、母はギロッと睨んだ。

「仕事で疲れた体を癒そうと家に帰ってみれば、知らない若い女がヤってる声を家中に響かせていることの、どの口が迷惑かけてないと言ってるのかしら?」
「ホテル代出すほどの女じゃない」

自分の息子が最悪なことを言っている。
「まさか、毎日取っかえ引っ変え付き合う女の子たちも、そんな扱いをしてるんじゃないでしょうね?」
「向こうが誘ってくるんだよ。俺がホテル代払う義理はない」
「は…」
しれっと「自分は悪くない」宣言をするバカ息子に言葉を失う。

「避妊してるから、相手を妊娠させることはない」

「……ん〜〜っ!」
頭の血管が切れるかと思うくらいだ。

その時、ふっと思い出したのだ。
母は途端に悲しい顔へと変わり、リビングの大きな革張りのソファへ力なく座り込んだ。

「ホントに、女にだらしない男になって……あの子になんて言ってお詫びしていいのか」
小さく鼻をすすり、持っていたレースのハンカチで目頭を軽く押さえる。

そのセリフに、梛は怪訝な顔をした。
「は?あの子って誰だよ」

妙に大人の男の声を出す息子に、母は眉間にシワを寄せて振り向き、ジロリと睨む。
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