Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
どこが吹っ切れた私は、少し印象が変わったと周りから言われるようになった。
私は、女子社員から「クラッシャー」だの「魔性の女」だのありもしない噂を立てられて、その噂は新入社員が入る度に伝説のように語り継がれる。
恋愛関係を崩したことなど一度もない。
しかし社内恋愛カップルが誕生すると、男側は私に好意がありながら付き合いを始めたり、付き合った結果私が好きということに気が付いたりでそれがもつれる原因になり、私に怒りの矛先を向ける。
こんな人たちを見返すには仕事を頑張るしかないのだ。
そう思って今まで頑張ってきたはずなのに、同じ社内に私を狂わす男がいる。
ずっと一緒に働いてきたはずなのに、今更になって本性出しちゃって・・・
そして、今まで地味だったくせに女社員に囲まれちゃって・・・
「私、瀬戸口さんのことどっかで見たことあるな~って思ったんですけど、K大のエモ▲☆%」
と西木が言い出した途中で瀬戸口が西木の口を塞いだ。
「お前それいったら殺す」
とボソッといったのがかすかに聞こえた。
瀬戸口は私をちらっと確認しながら西木を離した。
いや、なになに?怖いんですけど。
その日、瀬戸口は外に出ていてそのまま直帰だった。珍しく仕事も早く片付いたので定時で上がろうと更衣室に向かうと、西木が私の前に現れた。
「今泉さんって瀬戸口さんと付き合ってますよね。」
単刀直入に言った西木に、私は思わず固まってしまう。
「今泉さんは知らないと思いますけど、瀬戸口さんで誰とでも付き合うし、ヤル男だって知ってました?
でも、誰にも本気にならない・・・
今まで彼に、好きって言われた人が誰もいない。
エモーションレスな男。
通称「エモ口」つまり感情がない人なんですよ。今泉さんも遊ばれないようにきをつけて下さいね。
あと実は私も瀬戸口さんとしたことありますから・・・SEX・・・あの人やっぱりうまいんですよね~~経験豊富っていうか、女がどうすれば喜ぶかよくわかってるし、またしたいな~~~」
そういって含み笑いをして去っていった。
私は、怖くなって座り込んだ。
西木は只者ではないと思っていたし、瀬戸口も相当な経験をしていることぐらい覚悟していた。
でも、二人の間に「愛」がなかったとしても二人が体を重ねたという事実が憎い。
(憎い・・・?こんな感情が私の中に存在しているなんて…)
次の日に、山村夫妻邸の相談のため二人で資料を見ていると自然な流れで瀬戸口は私の腰に手を回した。
その時、ふと西木と瀬戸口が裸で抱き合う情景が浮かぶ。
どんな風にセックスとやらをするかなんてわからないのに、喘ぐ西木の唇を覆い細い腰に手を回し、瀬戸口が絶えずに激しく腰を動かす。
処女のくせに、映画で出てきたそういうシーンしか知らないくせにやけにリアルな映像が浮かんだ自分が恐ろしい。
すると瀬戸口の手が急に汚らわしく感じてしまう。
私は、すぐにその手を跳ね除けた。
軽蔑した目で見る私に何かを察したのだと思う。いつもはふざけた態度をとるくせに不安そうな顔をした。
「西木が何かいった?」
「別に・・・」
私は、すぐに自分の仕事に取り掛かる。何年も私に片思いをしてこようがそんな男は論外だ。
私へ片思いをしていたというのも、本当は嘘なのかもしれない。
ヤレればそれでいい。
ヤレそうだと思ったから近づいたんだよね?
触れられた腰に何か良からぬ菌が付いているような気がしてしまいぞっとする。
いや、恋愛終わるの早いわ。もう一生独身でいろという呪いなのかな。
瀬戸口に限ってそんな男だとは思わなかった。
そんな男だと思いたくなかった。
東京の空の厚い雲の中から星を探してみたけれど見つからない。
文樹くんとみたあの星をもう一度見られたらいいのに、でももうあの頃のような純粋な恋はできない。
大人になれば必然的に、キスだけでなく体の繋がりを求めるのは当然。
私は、もう28歳で周りはみんなそれなりの経験を積んでいる。経験人数が片手で治っていなくても不思議でなない。
逆にそのぐらい経験していないとおかしいのかもしれない。
その方が私も安心できるし。
私みたいにこの歳で何の経験もない方がレアだ。
このままいっそ瀬戸口以外の人が私の初めてを奪ったとしたら瀬戸口はどんな顔をするかな?
なんてそういう悪い考え方をしてみたりする。
苦手な後輩と自分の好きな人がそういう関係だったから卑屈になっていただけだと思いたい。