Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
私の父は、曽祖父の代から会社を経営しておりとても裕福だった。
母は、幼い頃に両親に捨てられて施設で育ち仕事をしながら学業に励んでいた。
優秀だった母は、大学首席で卒業し就職した会社で父と出会い恋に落ちる。
結婚は、母が優秀だったため祖父は大変母を気に入り結婚を認めたが、祖母は最後まで賛成しないままだった。
「両親に捨てられたのだから、同じことをする」と
のちに私が生まれるが、祖母は「男」でなかったことを攻め立てた。
また仕事を復帰しようとした母に、「母親失格」だと怒鳴り、親戚中に根も葉もない噂を流した。
その後、二人目の子供を望むも不妊が続き、体力的にも年齢的にも妊娠を望めなくなった時も精神的な虐待を祖母から受けていたそうだ。父は多忙のためそのことを一切知らなかったらしい。
時折やってくる祖母は、欲しがるものをなんでも買ってくれるし、食べたいものをなんでも用意してくれた。
母と違って怒らないし、イライラしていないし、優しくてなんでも許してくれて私にとっては「神」のような存在だった。
その話を聞けば、祖母に懐く私も母は気に食わなかったのだろう。幼かったとはいえ一切気がつかなかった。
精神的にダメージを受けた母は鬱になり、時折ヒステリックを起こしていた。
そして、母が死んだ日・・・・
「世間体のために病気と公表したが、自殺だったんだ・・・大量の薬を飲んで・・・」
と父は言葉を詰まらせながら呟いた。
「俺と結婚しなければ、彼女は今も生きて幸せに暮らしていたと思うと・・・」
滅多に涙を見せない父は、ハンカチで目頭を押さえながら今まで抱えてきたもの吐き出すかのように泣き出した。
彼は、仕事の重圧に耐えながらも、誰にも言わないまま一人で抱え込んできたのだろう。
「だから、お前にも彼にももう同じ思いをして欲しくない。お前にはもちろん幸せになって欲しいし、彼の努力も無駄にはしたくないんだ。自分の立場をわきまえて、祝福される結婚をしなさい。
今すぐに別れろとは言わない。しっかり考えなさい・・・」
そう言い残して去っていった父の背中は小さく見えた。
私が「大人」になっていくと同時に父はどんどん老いていく。今日久しぶりに向き合ってシワの数も増えたし、白髪も増えていた。父親とは一切関わりはなかったが、尊敬しているし、父に認められたい気持ちで自分を奮い立たせていた。今の私があるのは父のおかげなのだ。
母の話を聞いて、あんなにも自分を責める弱々しい父の姿が頭から離れない。
いくら、私が仕事を頑張ったとしても、私のことは社長にすることはないと過去に父に言われたことがあった。
理由まではしっかり教えてもらうことはできなかったが、一人娘である以上、今まで父が守ってきた会社は他の人に社長の座を譲ることになる。もしくは私が、次期社長としてふさわしい相手と結婚して、子供を授かるのが得策だろう。そして、それが父にとって一番喜ばしくて、親孝行になるのかもしれない。
その相手に蓮は該当しない。
いくら愛していようが・・・
愛を選んだ両親は、結果的に「冷めきった家族」しか作ることができなかったのだ。
(蓮となら大丈夫。きっと幸せになれる。どんなことがあっても・・・)
この根拠のない自信は両親の間にもあったのだろう。
自宅のリビングに置かれた本棚には父の出版した本がずらりと並べられている。蓮の部屋にはそれらがボロボロになるまで読み込まれてあった。私の父を誰よりも尊敬している。蓮が社長になればいいのに・・・
(なんだよ。家柄って・・・昭和かよ!!!時代が違うんだよ!!!!)
私は大きなため息をつき、ワインを口に含んだ。
広いリビングには冷めきった料理が並んでいる。どれもいい食材を使用し、専属のシェフが作ったディナー。
蓮の狭いアパートで食べるカップラーメンの方が100倍美味しい。
なんだっけ、あの焼肉のタレかけご飯とかさ。
お金がなくても幸せに生きてく方法をたくさん知っている。
(別れてたまるかクソ親父)