Bloody wolf
住宅街を抜けバイクが向かうのは、ネオン煌めく繁華街。

通りすぎる晴成のバイクに、キャーキャーと黄色い悲鳴をあげる若い子達。

そして、物珍しげにこちらを見る夜の住人達がそこにはいた。


熱狂する若者たちに、晴成の人気が凄いことを改めて知る。


色々と面倒臭い事になりそうだ。

この男と一緒にいると、絶対に面倒ごとに巻き込まれるそんな予感をひしひしと感じた。


私を乗せた晴成のバイクは幾つかの角を曲がり、目的の場所へと到着する。

周囲のそれとは違い、一段ときらびやかなネオン看板のついた建物の周囲には人が溢れてる。

黒い外壁の大きな建物は夜の闇に混じるようにそこに鎮座していた。


地獄の門を思わせるような赤い観音開きの扉は、金細工が施されている。

ここに入らないといけないのか? とついてきてしまった事を後悔した。


晴成は、自分を一目見ようとわらわらと集まってくるギャラリーを気にすることなく、建物の正面にバイクを横付けした。

扉の両サイドにいた黒服の2人の男は慌てて駆け寄ってくると、当然のように私達を出迎えた。



「いらっしゃいませ」

と1人が言うと、

「バイクをお預かりしておきましょうか」

もう1人が申し出た。


「ああ、頼む。降りるぞ、響」

晴成はバイクのヘルメットを脱ぐと、私を振り返る。

人目の沢山あるここで、ヘルメットを脱がなきゃいけないのかと思ったら、急に億劫になった。


フードが脱げないように、細心の注意を払って脱がないといけないし。

今回のヘルメットはフルフェースじゃないから、上手くフードを引っ張りながら脱いだら大丈夫かな。


こんな見世物になってるような場所で顔出しなんて絶対にありえない。


晴成がバイクから降りて、私もそれに続く。

俯いてヘルメットのバイザーを上げて前から垂れてるフードをしっかりと引っ張った状態にした。


「ヘルメット脱がせて」

両手でフードを引っ張りながら言う。

「あ、おう。ちょっと待ってろ」

晴成は自分のヘルメットを急いで脱ぐと黒服の人に手渡した。


「ゆっくりだからね」

念を押す。

「フッ・・・任せろ」

ゆるりと口角を上げた晴成は、両手でヘルメットを挟むとゆっくりと上に引き上げていく。

フードの引っ張られる感覚に負けじと引っ張り返す。


周囲のギャラリーは何事かと不思議そうにこっちを見てるみたいだったけど、今はそんなこと構っちゃいらんない。
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