Bloody wolf
晴成が器用にヘルメットを外してくれたので、フードが無事だった。

ホッと一息つくと、周囲がざわめいた。


ま、そりゃそうだよな。

白いパーカーのフードを深く被った不審人物が登場したんだからね。

私の事を何者か? って顔でじろじろ見てるのが痛いほど分かった。



「大丈夫か?」

私に向かって優しい声を出した晴成に、女の子達が悲鳴を上げる。


煩いんだけど。

鼓膜が破れたらどうしてくれるんだ。


遠巻きに私達を囲うギャラリーはかなり増えていた。

早く中に入ってしまわないと。

そう思った時だった、その殺意の籠った視線を感じたのは。


警戒したように周囲に意識を向ける。

俯き加減のままゆっくりと見渡す。


どこ? この視線はどこから来るの?


女の子達が向けてる妬みや嫉妬の視線じゃない。

明らかな殺意の混じったそれの出所を突き止めないと。


「響、どうかしたのか?」

私の異変に気付いた晴成。


「晴成、警戒した方がいい」

低い声で、晴成だけに届くように告げた。

一瞬怪訝そうに眉を寄せ、私の言葉の意味を飲み込むと晴成は射るような視線を周囲へと向かわせた。



「赤谷、覚悟しやがれ!」

怒鳴り声と同時に現れた男がナイフを手に躍り出た。


「「「キャー!」」」

悲鳴が周囲を包む。


視線に殺気を込めてたのはこいつか。

目が逝ってる、殺す気満々なのね。


ギャラリーが後ずさると、私達の周囲は大きく開けた。

そして、もう1人男が現れる。


「よう、赤谷」

その男の手には黒い拳銃が握られてた。

こっちの奴の方が危なそうだ。


2人の男が示し合わせたように並ぶ。

ふ~ん、仲間ってことね。


ナイフと拳銃・・・さて、危ないのはどっちかな。

自棄に冷静にその場の分析をしてる私がいた。


攻撃は一度だけ、そして一度に2人にダメージを与えるには・・・。

どうやったら、効率がいいかな。


「響、あぶねぇ。下がってろ」

晴成が私を庇おうとして前に出ようとすれば、

「一歩も動くんじゃねぇ」

と拳銃を持った男が叫んだ。


苦虫を噛み締めたような顔で動きを止めた晴成。

変なことに巻き込まれたなぁ、冷静な私。


攻撃は一瞬。

敵に隙はきっと現れる。


私は息を潜めたまま状況を観察した。
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