課長の瞳で凍死します ~羽村の受難~
「我が家はもう寝ることにした」
といきなり、雅喜が言い出す。

「……まだ八時前ですよ」
と言いながら、羽村は仕方なくコートを受け取った。

「寝ることした。
 家族三人、川の字で仲良く。

 だから、帰れ」

 さあ、帰れ、と繰り返した雅喜は、雪乃に、
「プリンは真湖に渡しておきます。

 ありがとう。

 今度、二人で、ゆっくり夕食でも食べにいらしてください。

 おって、連絡します」
とまたあの、就職試験の合否でも知らせるのか、という口調で言う。

 っていうか、二人で、を強調しすぎだ、と思っていると、雅喜は、じゃあ、と彼にしては珍しく、雪乃に微笑みかけ、ドアを閉めた。

「まったくも~」
と言いながら、羽村はコートを羽織り、

「じゃあ、送っていくよ」
と雪乃に言った。

 雅喜は、二人きりにさせようとして、自分を叩き出したのだろう。
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