課長の瞳で凍死します ~羽村の受難~
 


「君を嫁にもらう人は苦労しそうだよねえ」

 夜道を歩きながら、羽村は呟く。

 あんな溺愛している親代わりが居るんじゃ、雪乃がちょっと泣いて帰っただけで、ひどい目に遭いそうだ、と思ったのだ。

 そのとき、雪乃の姿が視界から消えた。

 振り返ると、彼女はさっきの場所で足を止め、こちらを見ていた。

「どうしたの?」
と訊くと、

「……やはり、羽村さんは、私のことなどお嫌いなんですね」
と言ってくる。

 君を嫁にもらう人、などと、他人事のように言ったからのようだった。

 適当に誤摩化そうかと思ったが、雪乃はあの初めて現れたときと変わらぬ、絵本から抜け出たかのような雰囲気のまま、自分を見つめている。
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