夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
「いつもそう。ラミンは口は悪いけど私を気遣い優しくしてくれた。屈託なく笑う笑顔を見るとドキドキした…」

目を瞑り風を感じて微笑むミレイア。
自分を小娘と呼び一つも名前で呼んでくれなかったけど、こんな世間知らずな王女を面倒見よくみてくれたラミン。
うんと年上で少し意地悪でいつでも守ってくれた。

「私は初めから、ラミンのことが好きだったのかもしれない。優しい笑顔も意地悪な顔も心配そうな眼差しも…その綺麗なブルーグリーンの瞳に見つめられる度に胸が高まって恋を知らなかった私の心はラミンで一杯になった…」

目を開けたミレイアは綺麗に整ったラミンの顔を見つめ鼻をつついた。

「でも、アマンダさんが現れたときは辛かったな。私では太刀打ちできない綺麗な人だった…。今はラミンの事を忘れてしまったそうだけど、ラミンは忘れられて辛くなかった?私はラミンに忘れられて辛かったわ…。こんなに…辛いなんて…」

一緒に旅したことも、辛い時に支え合ったことも、一緒に青い空を取り戻したことも…すべて忘れてしまったラミン。
楽にさせるためにボタンをはずしたシャツの間から見える龍の痣とミレイアが黒い雲を封印するため刺した剣の傷跡がチラリと見える。
そっと胸の傷に触れた。

「この傷、ごめんね…痛かったよね…。その後も眠りから覚めない私のせいで辛い日々を過ごしてきたんだよね…それも忘れてるならその方がいいのかもね…」

罪悪感と悲しみで涙が零れラミンの頬に落ち下へと流れていく。
ふうっとひとつ息を吐いたミレイアは涙を拭き気を取り直してまた空を見上げる。

「目覚めた時に初めて名前で呼んで愛してるって言われて本当に嬉しかった。男が泣くなんて情けないなんて言ってたけどラミンの涙はとても綺麗で、ずっと待っていてくれたんだって、この人の為に生きていこうって思ったの」

揺れる心境を語ったミレイアはいつの間にか真剣な眼差しで前を見据え凛とした空気を漂わせていた。

「私たちの出会いも、愛し合った記憶もラミンが忘れてしまっても私は覚えている。例え呪いが消えなくても私はラミンを愛し続けるわ」

決意を新たにしたミレイア。

でも、ラミンは忘れてるだけじゃなくミレイアを憎んでいる。
挫けそうになるときは必ず来るだろう。
そんな時は…と太陽の光を眩しそうに見つめた。

「あのメリダヌスの丘で見た希望の光をもう一度ラミンと見たいわ…」

ラミンの腕の中で朝日を浴び力が沸いたあの日。
あの陽の光を浴びたらまた苦難に立ち向かえる勇気を貰えるかもしれない。
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