夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
……


「お久しぶりですわね?アルトバル様」
「デマインド公爵夫人、久しぶりだね?お元気そうで何よりだ」
「このノアローズに来るのも久しぶりで、あなたのお妃候補だったころを思い出しますわ」
「…今はデマインド公爵と幸せにしてるのだろう?良かったよ。ではまた」
「…あ、アルトバル様、肩にゴミが…」
「あ…ああ、ありがとう…」

一連の交わした言葉を振り返ると、思わせぶりな上目使いで見られ居心地が悪かったことも思い出す。
通り過ぎる時後ろを軽く触れられた。

……


「まさか…あの時…?」

「そのようです…」

エルストンの肯定の言葉にがっくりと肩を落とす国王。
サリア王妃は国王の背中を摩りながら言葉を交わさなかったもののルイーナに鋭い目つきで睨まれたことを思い出す。

「なぜ…?今更…30年近く前の事を恨みに思っての事か…?」

「それは、グラージャに取りつかれて過去の嫉妬がぶり返した…と言った方が正しいじゃろう」

国王の疑問に答えたのはエルストンと共にグラージャ捜索に携わったモリスデン。
魔法にかかった者たちに事情聴取し知り得た情報を元にノーゼス王国にも赴いた。

ノーゼス国の王は何も知らない。
もちろん、デマインド公爵も。
ルイーナ公爵夫人にも会ったがその時の事はほとんど覚えていなく、グラージャの気配も感じられなかった。


……

「どうしたと言うのでしょう…。ノアローズに赴いたのは覚えているのですが結婚式に出席した時の記憶が曖昧なのです…。ただ、凄く昔の事を思い出して闇に落ちていく感覚はありました…。あんなことは初めてです。ボランティアに来てくださった方々をお世話したのも覚えてはいるのですが何をしたかは…」

首を振るルイーナ夫人。
未だに嫉妬の念を抱いて生きてきたのならなんて悲しい人生だろう。
彼女は利用されただけに過ぎない様だ。
今はグラージャの気配もないと聞いてホッとする国王と王妃は自然と手を取り合う。

何故、グラージャに利用されることになったのか、ルイーナ夫人に何か変わったことが無かったか聞いてみると、黒い雲の影響でノーゼス王国も天災に見舞われそれは大変な状況だったらしい。
洪水や地割れが起き山が崩れ、雪が邪魔して復興が遅れていた。

「崩れた山は夫デマインド家の持ち物で状況を見るために赴いたのが半年ほど前。私は一緒に付いて行きました。がけ崩れのようになった山を近くまで行ってみると何やら光るものを見つけて…」

「それは何ですか?」

「白っぽいオパールのブローチでした。とてもきれいでなぜこんなところにと思いながら魅入っていたのですが、その後の記憶が曖昧で…気付けばそのブローチも無くなっていました」

……

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