夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
「ガゼント…!」
「なかなか面白い研究材料だったよラミン。魔法使いの血が騒いだ」
「何だと…!」
目の前にはミレイアの口を抑えたガゼントが薄笑いを浮かべていた。
ラミンは自分の体が動かないことに気が付いて物凄い形相でガゼントを睨んだ。
…フフフフフ…私たちを敵に回したことが運の尽きだ大人しくヴァルミラを渡せばよかったものを…
「ガゼント…やはり敵だったのか…騙しやがって!」
「私は敵とも味方とも言っていないよ?ただ平和を愛し、グラージャ様復活を願った一介の魔法使いさ」
「ぬかしたこと言ってんじゃねえ!」
メラメラと黒いオーラがラミンから立ち上りガゼントは目を見張る。
動かないはずのラミンの体が一歩前に出た。
…小癪な奴だな、だが、その威勢は私は嫌いではない…
「う…ああ…!」
ラミンの体は締め付けられるようにギシギシと唸りを上げ耐え切れないラミンの呻き声が漏れる。
「らっ…んっ!ん~っ!!」
突然ガゼントに羽交い絞めにされ立ち竦んでいたミレイアはラミンの異変に声を上げ駆け寄ろうとするのをガゼントに止められた。
「ミレイア、大人しくしているのだよ?ここでラミンの死にざまを見たくはないだろう?」
「っ!!?」
びくりと硬直したミレイアは呻くラミンを目の前にして何もできずに涙が零れた。
「さて、潮時だ。ミレイアは連れて行くよ?帰して欲しくばノーゼス国の山までヴァルミラを連れて来ることだな」
「ま…待て…そいつを…」
どうするつもりだ!!
言葉も出ず息も絶え絶えなラミンに不敵に笑ったガゼントは、「ああ、そうそう」とミレイアを連れラミンに近付いた。
「これを忘れるところだった」
ラミンの胸ポケットに手を入れたガゼントが徐に取り出したのは白いオパールのブローチ。
何時の間にそんなものがポケットに入っていたのかまったく気付かなかったラミンは目を見張る。
それは明らかにグラージャのブローチだった。
「ラミン!」
口を押えた手でブローチを取ったためしゃべることが出来たミレイアが自分の額をラミンの額に押し当てた。
苦しむラミンを少しでも癒せるように手を拘束されているための苦肉の策。
オパールのブローチを自分のポケットに仕舞ったガゼントは「おっと」と二人を引き離す。
その瞬間にミレイアの涙がラミンの頬に飛んだ。
「ラミン!ラミン!」
「…ミ…レイ……」
「っ!ラミン!」
叫び連れて行かれるミレイアを見つめ、頭の中で交錯するように思い出が蘇る。
確かに、目の前にいる女を俺は知っている。
そう思うのにそれ以上は思考が停止し体は重く意識が遠のいた。
「いやっ!ラミ…」
そして、ガゼントとミレイアは忽然と消え、騒ぎを聞き付けたセイラス達がテラスに掛けてきたときには倒れるラミンの姿しかなかった。