夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫

「ああ…。いや…揉め事どころの騒ぎじゃない気がするんだが?」

ラミンが何とも言い難い顔をして呟くと周りの皆も心の中で頷く。
くすっと笑ったミレイアは最後に笑って消えたグラージャを想い天を仰いだ。

ただ一人の愛を欲した寂しい人だった。
どうか今度は人間に生まれ変わり愛する人と結ばれて欲しいと願う。

「最後に残した力はこの世界の復興のために使おう。では皆のものさらばじゃ」

「ええっ!?ヴァルミラ様!?」

どういうことですじゃーーー!と叫ぶモリスデンを放ってヴァルミラは飛び上り白銀の龍の背に乗った。

「モリスデン、今まで世話になったの。キース、アドラードの髪の毛は我が持っていく。これがなくともお前たちの教会はいつまでも安泰じゃ。ではな!」

「だっだからヴァルミラ様ーーー!説明してくだされーーーーっ!」


ヴァルミラは白銀の龍と共に飛び去り消えてしまった。
その後の空には雪のような白い光が舞っている。
あれはヴァルミラの「最後の力」なのだろう。

光りが降った後にはなぎ倒された木やめくれた土から青々とした草木がみるみる生え、荒れていた大地は豊かな森や草原に変わっていく。

「ふん、最後まで自分勝手な奴だ」

呆れるように鼻を鳴らしたガゼントを皆が注目する。

「ガゼント様…ヴァルミラ様は…」

唖然としていたキースはガゼントに恐る恐る聞いてみる。

「ああ。本当は100年も前に寿命が来るはずだったがこの日の為に温存していたのだろう。奴はようやっと永い眠りについたのだ」

ヴァルミラが100年ほど眠りについていたのはそういうことだった。
淡々としたガゼントの言葉を耳にしたモリスデンは膝を着きおよよと涙を流す。

「あんまりですじゃ…こんなあっさり逝ってしまうとは…」

何とも可哀そうな後ろ姿に皆かける言葉も無く、ヴァルミラが亡くなったなど誰も実感する事ができなかった。
またひょっこり出てくるのではないかと思えて悲しみは感じない。

< 159 / 169 >

この作品をシェア

pagetop