夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
「本当よ。何度か舞踏会でアルトバル王子とお話する機会があったでしょ?いつも王子の傍にいるハインツ様に目を奪われたの!」

あの知的そうなモノクルがお似合いになるのはハインツ様しかいないわぁ~、と一人盛り上がってるアリナに呆れため息をついたサリアはぼそりと言った。

「アルトバル様だって知的そうだけど…」

「ふふふーん」

「な、何…?」

ニヤニヤと含み笑いをして顔を覗き込んできたアリナに後退りするサリアはなぜか冷や汗が出る。

「サリアはぁ、アルトバル様が好きなんでしょう?」

「え…好きかどうかは……分からないわ…」

遠くからしかお目にかかることのなかったアルトバル王子。
自分とは身分が、というより住む世界が違うと思っていた。
それがひょんなことからお妃候補になり何度か言葉を交わし舞踏会でダンスを踊るうちに惹かれていっているのは確か。
艶やかな黒髪に端正な顔立ち。背の高い彼に見下ろされた時の深いアメジストの瞳と目が合えば既視感に捕らわれ吸い込まれそうになるほど心を奪われてしまう。

恋い焦がれる気持ちはある。
でも、これはきっと儚い夢…。
ときめいたところですぐに離ればなれになって二度と会えなかったいつかの淡い想いを思い出す。

好きになってはいけないのだ。
アリナが辞退すると言うのならアルトバル王子のお妃はルイーナに決まりだろう。

「こんな出来レースをしなくてはいけないなんて…」

諦めのため息を付き悲しそうに呟くサリアの背中を擦りながら優しい眼差しを向けるアリナに力無く項垂れるしかなかった。

……
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