夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
「………」

返事をしないモリスデンにどういうことか悟ったミレイアはセイラスの腕にしがみつき泣き出しそうなのをなんとか堪えた。

あのブルーグリーンの瞳で自分にだけ向ける優しい眼差しも、心配する困った顔も…もう見れない?切なく愛していると言ってくれた言葉ももう聞けない?
呪いが解かれなければ、忘れられ、憎まれ、あの冷たい目で睨まれ…

ずっと…このまま…
そんな事態を信じられないミレイアは目をぎゅっと瞑りどうか嘘と言って!と望みのない願いが頭を過った。

「…じゃが…少し予想とは違うことがあるのじゃ。ラミンにミレイアの事を話すと不機嫌にはなるんじゃが、直ぐに頭痛を起こしてしまうのじゃ。何かを思いだそうとしてるようにも見える」

「どういうこと?」

セイラスがミレイアに代わり疑問を投げ掛ける。

「ラミンはミレイアを忘れたのではなく記憶を呪いに封じ込められておって、ラミン自身が呪いに抗っている。わしはそう思うのじゃ」

「じゃあ、ラミンが自分で呪いを解くことも可能…?」

「ああそうじゃ。しかし簡単では無かろう。今のラミンは完全に呪いに支配されとる。ラミンを救えるのは…ミレイア」

呼び掛けられ固く閉じた瞳を開けモリスデンを見た。

悲痛な表情のミレイアに一瞬息を飲んだモリスデンは安心させるように僅かに笑い、半分は自分の願いでもある一筋の光を話した。

「ラミンを呪いから救えるのはミレイアしかおらん。そなたの深い愛情だけが頼りじゃ」

「わ…たし…?」

「そうだよミレイア。僕もそう思う。ラミンもきっと助けを求めてる。挫けていられないよ?僕達も協力するから」

セイラスは元気を出させようと明るい声でミレイアを励ました。

「……私は、何をしたら……」

「何もしなくて良い。ラミンの態度に辛い思いもするじゃろうが、ただ傍に居てやっておくれ」

モリスデンの言葉にミレイアは頷く。
そんなミレイアの頭に手を伸ばし撫でたモリスデンは少し困った顔をする。

「そなたの辛そうな顔はあまり見たくはないのじゃが耐えてくれ。わしらも何とか呪いを解く方法を模索するからの」

「はい…モリー、お願いします」

僅かに口角を上げたミレイアに頷き何度も頭を撫でたモリスデン。

ラミン…
生まれてこのかた家族意外で愛されたことの無かったミレイアが初めて愛した男。
いつも悪態ついて小憎らしい奴じゃがミレイアに対する愛情は本物じゃった。
二人は黒い雲の脅威から世界を救いやっと幸せを掴んだばかりじゃというのに、神はなんと残酷な運命を負わせるのじゃ…。

ミレイアを想い、きつく当たりはするものの人間として男として認めているラミンを元に戻し二人の幸せを守りたいとモリスデンは強く願った。
< 77 / 169 >

この作品をシェア

pagetop