夜が明けるとき ~続・魔法の鍵と隻眼の姫
目が覚めるとベッドに寝かされていた。

辺りは暗く蝋燭の炎で明かりを最小限に抑えられた部屋。
横を見るとセイラスが優しく微笑んでいる。

「ミレイア、目が覚めたかい?」

「お兄さま…ラミンは…?」

セイラスは何も言わず悲しそうに微笑み首を横に振った。

「夢じゃ…ないのね…ラミンは…私だけを…」

忘れてしまった…。
あの蔑むような目で睨むラミンを思い出し胸が締め付けられ苦しい。
顔を覆ったミレイアの目尻から涙が流れる。

「ミレイア、ラミンは愛する者を忘れる魔法に掛けられてるんだ。ラミンの状態がミレイアを愛すればこそだということを忘れないで」

「…はい…でも…私を見るあんなラミンの目は初めてで…私…どうしていいか…」

「ミレイア…おいで」

ベッドに座ったセイラスはミレイアを起こし抱き締めた。

子供頃からミレイアが悲しい事や辛い事があるとセイラスが抱き締めてくれた。
そうするといつも不思議とミレイアは泣き止み落ち着いてくる。
両親の抱擁よりも効果は絶大で昔からセイラスはミレイアの精神安定剤代わりだった。

「きっと直ぐに魔法は解かれるよ、気をしっかり持って?」

あやすように背中を擦り髪を撫でるとミレイアはふぅと大きく深呼吸し頷いた。

コンコンとノックの音がする。
セイラスが返事をすると入って来たのは難しい顔をしたモリスデン。
セイラスがミレイアから離れ立ち上がろうとするのを止めた。

「ああ、そのままでいい。ミレイア大丈夫かの?」

「…はい…モリー、あの…」

「うむ、ラミンのこと、話してもよいか?」

ミレイアは不安な顔をセイラスに向け目が合い微かに微笑み頷いたのを見てミレイアはモリスデンに向き直り頷いた。

「うむ…」

そんなミレイアに頷き返しモリスデンは椅子に座り一呼吸置いてから話し出した。

「まず、魔法と呪いの違いは知っておるかの?」

その問いにまたセイラスと目を合わせたミレイアは横に首を振った。

モリスデンの説明では…
魔法とは自分の力と自然の力を借り詠唱や魔方陣によって外側から働きかけるもの。
呪いは自分の能力を使い相手の思念に入り込み内側から相手を侵していく。

「今回ラミンが掛けられたのは呪い。愛する者を忘れるだけでなく相手を憎む…。そういう呪いじゃ」

「憎む……」

あの…ラミンの鋭い目。
あれは憎しみからきてるというのか…。
ミレイアは震え出しセイラスはきつく抱き締め背中を擦ってくれる。

「…愛情が深ければ深いほどその呪いは胸の奥深くに入り込み、わしも、ガゼント様でさえも届かないところにある。…ミレイアには酷じゃが、ラミンの呪いは簡単には解けないのじゃ」

「そんな…じゃあミレイアは…呪いが解かれるまでラミンに忘れられただけじゃなく憎まれ続けるということなのか?」

< 76 / 169 >

この作品をシェア

pagetop