白銀のカルマ
深夜2:00頃。

稲倉の従弟・正臣は足音ひとつ立てず、用を足すと忍び足で寝室へ戻ろうとしていた。

しかしその途中、和巳の部屋の隙間から僅かに光が漏れていることに気づき足を止める。

(まだ何かやってるのか……?)

詮索するつもりは一切なかったが、出来心でドアの隙間から部屋を覗くと2つの影がぼんやりと浮き上がっていた。

自分の太ももの上で眠らせ、恍惚の表情で優一の頭を撫でる和巳。

何を喋っていたが鮮明に聞き取れなかったが、ただならぬ雰囲気であることは一目瞭然だった。

「………あなたは………ずっと………ここにいるの。ずっと一緒よ……。ずっと……」

何かを反芻する唇はやがて優一の艶やかで、柔らかなピンク色の唇と重なる。

正臣はその光景を見た瞬間、口を押え一目散にその場から飛び出した。

まるで今の〝自分″を見ているようで、平常心ではいられなかった。

まさか和巳も彼を『愛して』いたなんて。

和巳の恋愛対象を考えれば自然なことだが、何故か鼓動が早まり呼吸が粗くなる。

遡ること2か月前。

妖艶な容姿と魅力的な演奏をする彼と出会った瞬間、一瞬で心奪われた。

恋人を巻き込んで暴力事件を起こしたのを皮切りに、欲望を抑え込むようにして生きてきたが彼と出会ってからと言うもの
その感情はとどまることを知らず日に日に大きくなっていった。

先日の皿洗いの時に交わした僅かな会話が精一杯だった。

触れるどころかまともに会話することさえも躊躇する自分からしてみると和巳のメンタルには全く感服である。

無防備な人間にあんなことをしておいて、毎日20:00に行われる演奏には純真無垢な顔をして聞き入っていられるのだから。
< 6 / 188 >

この作品をシェア

pagetop