不機嫌な彼と恋のマジックドライビング
「明莉」
名前を呼ばれて立ち止まる。
菜摘はニヤニヤしながら
「先に行ってるね」
と香田さんに会釈して二階へ行く階段へ行ってしまった。

私の買い物袋を覗きこみ

「それしか食わないの?」

と言いながら伸ばされた手が私の腕を引いてすっぽりと私を抱き締める。

「こっ香田さんっ!会社ですっ!」

慌ててもがく私に

「ん。わかってるけどちょっとだけ充電」

香田さんの温もりとオイルの香りに包まれる。

一分程ですぐに解かれた抱擁に、さっきまでくすぶっていた嫉妬心が溶けていく。

「ごめん、ツナギ汚れてんな。
制服よごしちゃったか?」

優しい眼差しにドキドキする。

「嫌な思いさせてごめんな。
でも、俺は明莉しか見てないし一緒にいたいのも触れていたいのも明莉だけだから」

「うん…。わかってる」

「引き止めてごめんな。
早く上で飯食ってこい。
もう少したくさん食べろ。
もう少しポッチャリしてたほうが抱き心地いいかな」

耳元に口を寄せ小声で囁く。

「俺んとこ泊まるまでに少し太っとけよ」

寄せられた唇が頬に軽く触れて、真っ赤になった私の顔を目を細めた香田さんが覗きこむ。

「仕事頑張れよ。」

手をヒラヒラさせて休憩室に入っていく後ろ姿を眺めすっかり頭の中は香田さんでいっぱいになっていた。


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