あたしを知らないキミへ
「でもね、お父さん恵美加も知ってるように忘れん坊でね。高校からの付き合いだったんだけど、ある時2年目の記念日かな・・。その記念日をね、お父さん忘れてて、ものすっごく起こったことがあるの。あははっ。懐かしいわねー。電話で「今どこにいるのー!」って言ったら、「今友達の家でゲームしてる」って呑気に答えるから、お母さんもう頭にきちゃって。それからしばらく、お父さんとは口利かなかったわ。だけどお父さん、毎日謝ってきて「もう絶対に忘れないから許してくれ」ってお母さんの家に泣きながら来たことだってあったのよ。それでね、そのままお母さんの誕生日がきて、お父さんが「17歳のお誕生日おめでとう」って言って、花束をプレゼントしてくれたの。ありきたりって思うかもしれないけど、その「ありきたり」がお母さんにとっては、すごく嬉しかったの。お母さんの誕生日を覚えてくれていた嬉しさはもちろんあるけど、何よりあの時お母さんにプレゼントしてくれた時のお父さんの姿が、すごく真剣で必死だったの。だから、もう一回信じてみようって思えたの。それからもたまに約束忘れちゃう時もあったけど、唯一お父さんが今でも忘れないのが記念日とお母さんの誕生日なの。なんて言うのかな・・。そんなお父さんのダメなところも良い所も、全部ひっくるめて好きなのよね。」

「うふふっ」と、少し照れながら話すお母さんを可愛いなって思った。
まるで、高校生に戻ったみたいに、お母さんのその頃の残像が見えた気がした。
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