あたしを知らないキミへ
アンタだった。

アンタもちょうど駅に着いたのだろう。
あたしの一歩先を歩くアンタがいたんだ。
改めて大きな背中を前に、あたしは急に切なくなって顔をアンタから背けた。

前よりも少しだけ伸びた襟足、後ろからでも分かる左耳に付けているリングピアス、首筋のチラッと見えた銀のネックレス。

そして、あたしの前を歩くアンタそのものが、あたしの胸をざわつかせた。
どうしてだろう。
前より少しだけ前に進んでいたと思っていた。

アンタをあたしの中から消せていると思っていた。
でも、それは全部ただの錯覚にしかすぎないことだったのだろうか。
アンタに会っただけで、今まで保っていた気持ちが全部崩れて、アンタの世界に引っ張られていくんだ。


そしてあたしは・・

気づいてしまったんだ。
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