幼な妻だって一生懸命なんです!
駅に着くと、辺りを見渡すが長瀬さんの姿は見えない。
啓介に見られるのは少し恥ずかしい。

「じゃあね」

改札へ向かう啓介を見送ろうとしたのに、啓介はそのまま隣に立つ。

「なにしてんの?」

「一緒に待つ」

「なんで!」

「確認する」

「なにを?」

「いろいろ」

「いいから、行ってよ」

人の通りの邪魔にならないように改札口と反対の壁側に背を預けて、スマホをいじり始めた啓介のスネを蹴る。

「痛ってえな」

「いいから、行きなよ」

「俺に見せられないような男なのかよ」

「そういうんじゃない」

「じゃあ、別にいいじゃん」

啓介を体ごと押しやって、自分のテリトリーから追い出そうとしたらビクともしない。
挙げ句の果て「邪魔」と腕を掴まれ、自分の身体から私を引き剥がそうとした。

啓介が私の腕を掴んだ瞬間、啓介とは逆サイドから誰かに腕を掴まれ私を守るように胸に抱え込まれた。
姉弟の小競り合いに気を取られて、その人が近づいて来ていたのを気がつかずにいたのだ。

「何してる」

長瀬さんの厳しい声が胸から響いて直接私の鼓膜に伝わる。
私は慌てて体を長瀬さんから離した。

啓介は壁に預けていた背中をすっと離し、長瀬さんを見る。
私は母親似で身長が伸びなかったが、啓介は父親似で180cm近くある。
その啓介の背丈すら追いつかない。

「お前、誰だ」
詰め寄る長瀬さんに啓介も近づいて行った。
長瀬さんから視線を外さずに。

「弟、弟の啓介です」

長瀬さんの腕の中で、声を張り上げた。

「えっ?」

長瀬さんの体から力が抜けて行くのがわかる。
それと同時に長瀬さんの腕の隙間からチラッと見える啓介の表情も和らいだ。


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