幼な妻だって一生懸命なんです!
週末に会う約束をし、今日はその約束の金曜日だ。
約束した日から一回だけ電話が来た。

「府中駅に10時」

まるで業務連絡。
恋人(仮)になった実感はない。
あれから奈々子さんには一通り説明をしたけれど、「ふーん」というだけで大して関心がなさそうだった。
奈々子さんの提案通りのお試し期間なのにな。

普段、制服に着替えることもあり、ジーンズが多い。
今日は紺のフレアスカートに白のリネンのシャツを合わせた。
なんの遊びもないけれど、これは私なりのおしゃれ。
セミロングの髪の毛は、仕事中は結ぶ。
今日はコテで巻いてみたりもした。
なんどもなんども鏡の前でチェックしていた。

駅まで徒歩20分はかかる。
9時半に家を出ようと玄関でパンプスを履きながら

「行ってきまーす」

いつもは私が両親より早く出勤するので、つい癖で出かける挨拶をする。
今日は両親とも仕事で出かけた後だ。
確か啓介がまだ家にいるはず。
すると二階の部屋から出てきた啓介が、Tシャツにジーンズ、リュックを背負っていつも大学に出かけるような格好で階段を急いで降りてきた。


「大学?」

「うん」

この流れだと駅まで一緒だ。
啓介は動きを止め、私を上から下まで見た。

「なに、その格好」

「え、おかしい?」

「…別に」

そのまま黙ってしまった。

「もう!」

もう一回鏡を見るために家に上がろうとすると「遅れるぞ」と手を引っ張られた。
いつのまに大きくなった啓介の手が力が私の腕を掴む。
加減はしてるのだろうけど、不意に引っ張られるとよろけてしまう。
転ばないように啓介が支えてくれた。

「本当に、大丈夫かよ」

「啓介が引っ張ったんじゃない」

「行くぞ」

その返答はなく、そのまま玄関を出て行った。
結局、駅に着くまでの20分間、啓介はなにも喋らない。
前を歩いているけれど、先に行くことはない。
なにがしたいんだ。
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