幼な妻だって一生懸命なんです!


連れて行ってもらったのは、神楽坂の懐石料理店だった。
いつも長瀬さんに連れて行ってもらうお店は、自分では行けない高級なお店。
さっき予約の電話を入れていた様子を見ると、長瀬さんは何度かその店を訪れているようだった。
今までも行く店はほとんど個室に通され、二人でゆっくり食事や会話ができた。

今日は一段と高級そうなお店で、お品書きすら出てこなかった。
この数日で食に関して、私の好き嫌いを長瀬さんはわかっている。

「優柔不断の美波に選ばせておくと明日になっちゃうからな、注文は任せて貰っていいか?()いたいものがあれば言って」

「はい、お任せします。ん?明日になるは大げさじゃないですか?」

「大げさじゃないと思うよ。啓介も言ってたからな?」

最近、長瀬さんは啓介と呼び捨てにしている。
駅での初対面から数日後、啓介と長瀬さんが連絡を取り合っていると知ったのは最近のこと。

長瀬さんから頂いた名刺に啓介が電話をしたのがきっかけらしいが、今では私を抜きに連絡を取ったり、会ったりしている。
どうやら気が合うみたいだ。

啓介は頼り甲斐のある兄ができたようだと嬉しそうに話していた。
頼りない姉ですみませんねと啓介に皮肉を言ったつもりが、やっと自覚したのかと笑われた。

こんな憎まれ口を叩きながらも、長瀬さんと私のことを啓介は応援してくていた。
私も二人が仲良くしてくれているのは嬉しい。
大事な人たちだから。

床の間がある旅館の一室を思わせるような広い座敷に通され、立派な座椅子に座り向かい合う。
懐石料理のコースがどんどん運ばれてきた。
いくら出世コースを辿っていると言っても、所詮、会社員だ。
毎回、こんな豪華な食事ばかりしていては、いくら私だって長瀬さんの懐が気になる。

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